基本的な物理量である長さ・距離を知ることは学術・産業の基盤であり、近年では3次元形状への適用が求められています。この3次元計測技術の歴史は古く、様々な技術が開発・製品化されていますが、近年急速に成長する産業技術での要求仕様を満たし、さらに高度化する科学技術において様々な現象の詳細な解明のためには、高速・高精度・広範囲計測を両立した計測手法が求められています。
このような要求に対して、我々はチャープパルスした超短パルスによる瞬時3次元形状計測手法を世界で初めて開発しましたが[1]、6桁を超える高ダイナミックレンジ計測という未踏領域を踏破するにはさらなる技術革新が必要でした。
そして近年、我々はこの課題を克服するため、実用性に優れるとともに高品位なファイバレーザーによる光コムを用いて、チャープした超短パルス列のスペクトル干渉を利用した瞬時3次元形状計測手法を開発しました[2-5]。光コムを用いたこの手法は、従来技術では困難であった高速かつ高精度、広ダイナミックレンジを同時に実現した新たな瞬時3次元形状計測技術です。
本手法は、光コムから発せられるチャープフリーパルス列とチャープパルス列のスペクトル干渉を用いて距離情報を時間情報に、さらに波長情報へ超高速に変換することで3次元形状を無走査で計測します。図に計測原理を示します。チャープパルスを測定対象物に照射するとその反射光は対象の3次元形状に応じた時間遅延を与えられます。これを無走査で取得するために、チャープフリーの超短パルスと干渉させて遅延時間に依存して波長軸上で変化するスペクトル干渉パターンを発生させます。このとき、もっとも間隔の粗い最低干渉縞周波数を与える波長は、2つのパルスが重なったタイミングにおけるチャープパルスの中心波長を反映します。この波長が距離情報を与えるため、イメージング分光器などで光スペクトルを空間的に計測すること形状情報が得られます。最近ではこの波長分布を光演算による2次元分光法により瞬時に計測することで、画像素子と同等の空間分解能を有する高解像度瞬時3次元形状計測を実現しました[6,7]。
[1] K. Minoshima, H. Matsumoto, Z. G. Zhang, and T. Yagi, JJAP 33, L1348-L1351 (1994).
[2] T. Kato, M. Uchida, and K. Minoshima, Sci. Rep., 7(1), 3670 (2017).
[3] T. Kato, M. Uchida, Y. Tanaka, and K. Minoshima, OSA Continuum 3(1), 20-30 (2020).
[4] T. Kato, M. Uchida, Y. Tanaka, and K. Minoshima, Optics Express 29(26), 43778-43792 (2021).
[5] S. Kurata, H. Ishii, K. Terada, T. Morito, H. Tian, T. Kato, and K. Minoshima, Optics Continuum 1(11), 2374 (2022).
[6] T. Kato, H. Ishii, K. Terada, T. Morito, and K. Minoshima: arXiv (2020) arXiv:2006.07801.
[7] 加藤峰士, 美濃島薫, “チャープした光コムを用いたワンショット3次元計測手法による超高速現象の計測,” レーザー学会, 49(4), 222-227, 2021(4月).