光周波数コム(光コム)

 光コムとは、周波数領域において櫛のように等間隔に並んだスペクトル群で構成される広帯域光です。その周波数はモード同期により極めて等間隔で、位相が揃った広帯域光であるため、多数のフェムト秒超短パルスを互いに高コヒーレントかつ高精度に制御された列として生成できます。光コムは、その高い制御性とコヒーレンスを用いて高精度な周波数計測に利用されると共に、距離計測に用いて計測精度とダイナミックレンジを飛躍的に向上させるなど様々な用途でその有用性が示されています。

 光コム光源とその応用技術の学術的価値が認められ、当該分野の発展に貢献したDr. T. W. HanschとDr. J. L. Hallに2005年ノーベル物理学賞が授与されました。初期に発表された論文の一部を以下に示します。

[1] S. A. Diddams, D. J. Jones, J. Ye, S. T. Cundiff, J. L. Hall, J. K. Ranka, R. S. Windeler, R. Holzwarth, T. Udem, and T. W. Hansch, Phys Rev Lett 84(22), 5102-5105 (2000).

[2] D. J. Jones, S. A. Diddams, J. K. Ranka, A. Stentz, R. S. Windeler, J. L. Hall, and S. T. Cundiff, Science 288(5466), 635-639 (2000).

[3] T. Udem, J. Reichert, R. Holzwarth, and T. W. Hänsch, Physical Review Letters 82(18), 3568-3571 (1999).

光周波数コムによる光フェーズドアレイの開発

 本研究では光周波数コムによる高速かつ広帯域な光フェーズドアレイの開発を目指して、位相制御された超短パルス群による任意波面発生技術の確立に挑戦します。従来は光集積回路で単色かつCW光を独立に位相制御する手法が主流でしたが、本研究では広帯域な超短パルス光を光周波数コムの共振器制御で位相制御するという全く新しい手法を提案します。これにより光周波数で空間を直接制御するという新たな光技術の創始に挑戦します。

加藤峰士、若手研究者の挑戦 第81回 "光周波数コムを用いた光フェーズドアレイ"、OPTRONICS ONLINE、2022

広帯域逆位相パルスによる背景光除去

準備中

瞬時3次元計測手法

 基本的な物理量である長さ・距離を知ることは学術・産業の基盤であり、近年では3次元形状への適用が求められています。この3次元計測技術の歴史は古く、様々な技術が開発・製品化されていますが、近年急速に成長する産業技術での要求仕様を満たし、さらに高度化する科学技術において様々な現象の詳細な解明のためには、高速・高精度・広範囲計測を両立した計測手法が求められています。

 このような要求に対して、我々はチャープパルスした超短パルスによる瞬時3次元形状計測手法を世界で初めて開発しましたが[1]、6桁を超える高ダイナミックレンジ計測という未踏領域を踏破するにはさらなる技術革新が必要でした。 そして近年、我々はこの課題を克服するため、実用性に優れるとともに高品位なファイバレーザーによる光コムを用いて、チャープした超短パルス列のスペクトル干渉を利用した瞬時3次元形状計測手法を開発しました[2-5]。光コムを用いたこの手法は、従来技術では困難であった高速かつ高精度、広ダイナミックレンジを同時に実現した新たな瞬時3次元形状計測技術です。

 本手法は、光コムから発せられるチャープフリーパルス列とチャープパルス列のスペクトル干渉を用いて距離情報を時間情報に、さらに波長情報へ超高速に変換することで3次元形状を無走査で計測します。図に計測原理を示します。チャープパルスを測定対象物に照射するとその反射光は対象の3次元形状に応じた時間遅延を与えられます。これを無走査で取得するために、チャープフリーの超短パルスと干渉させて遅延時間に依存して波長軸上で変化するスペクトル干渉パターンを発生させます。このとき、もっとも間隔の粗い最低干渉縞周波数を与える波長は、2つのパルスが重なったタイミングにおけるチャープパルスの中心波長を反映します。この波長が距離情報を与えるため、イメージング分光器などで光スペクトルを空間的に計測すること形状情報が得られます。最近ではこの波長分布を光演算による2次元分光法により瞬時に計測することで、画像素子と同等の空間分解能を有する高解像度瞬時3次元形状計測を実現しました[6,7]。

[1] K. Minoshima, H. Matsumoto, Z. G. Zhang, and T. Yagi, JJAP 33, L1348-L1351 (1994).

[2] T. Kato, M. Uchida, and K. Minoshima, Sci. Rep., 7(1), 3670 (2017).

[3] T. Kato, M. Uchida, Y. Tanaka, and K. Minoshima, OSA Continuum 3(1), 20-30 (2020).

[4] T. Kato, M. Uchida, Y. Tanaka, and K. Minoshima, Optics Express 29(26), 43778-43792 (2021).

[5] S. Kurata, H. Ishii, K. Terada, T. Morito, H. Tian, T. Kato, and K. Minoshima, Optics Continuum 1(11), 2374 (2022).

[6] T. Kato, H. Ishii, K. Terada, T. Morito, and K. Minoshima: arXiv (2020) arXiv:2006.07801.

[7] 加藤峰士, 美濃島薫, “チャープした光コムを用いたワンショット3次元計測手法による超高速現象の計測,” レーザー学会, 49(4), 222-227, 2021(4月).